02


何だよ、と歩みを止められた政也様が不機嫌そうに振り返る。

「城に乗り込むのはこの際結構ですが、その前に俺を偵察に出してくれませんか?」

俺が真剣な表情でそう訴えれば政也様も表情を改めた。

いくら俺を振り回し面倒や迷惑をかけてこようとも俺が政也様に仕えている理由はここにある。

俺様に見えても政也様は一兵士でも忍でも民でも分け隔てなく、奥州に住む者達の声を聞いてくれる。

決して無視したり捨て置くなんて事はしない。

民あっての俺だと、いつだか言っていた。

そんな方だから俺は仕え、守りたいと思う。

「当主が政也様や政宗様の様に寛大な方なら良いのですが、違った場合二人揃って即斬られるなんてごめんです」

「ah〜、そうだな。うっかり反撃して斬っちまっても大変だしな」

いや、なんで始めから殺る気なんだよ!

それが顔に出ていたのか政也様は俺の額を指で弾いた。

―ビシッ!

「…っ!?」

「Jokeだ。偵察に行って来い。俺だって優秀な部下をこんなとこで失う分けにはいかねぇ」

嬉しい言葉だが、額が痛くて俺はそれどころではなかった。

右手で額を擦り、政也様を睨み付ける。

地味に痛ぇんだよ。

それでも俺は文句も言わずに偵察に向かった。
そして、城主と現在の伊達についての情報はすぐに知れた。

政也様は大人しく待ってるいるだろうか、と一抹の不安を覚えながら俺は急いで戻った。

「Hey、待ちくたびれたぜ慎。どうだった?」

政也は見つからないよう葉の生い茂る木の、枝分かれした太い部分に腰掛け待っていた。

俺はちょっと拝借してきた食料を政也様に渡し、すぐ側の枝に腰を下ろす。

もちろんちゃんと毒味済みだ。

「当代当主は結構有名らしく調べるまでもなく直ぐ分かりました。何でも当主は女性。名は遊士様。評判は良い様です」

「女で遊士か。俺の記憶にはねぇな。…と、すると此処は俺達から見た未来か?」

「そのようです」

政也様が伊達家を継ぐ以前に女当主など存在していない。

ふむ、と政也が腕組みをし、俺が拝借してきた漬け物を手にした時、こちらに何者かが近づいてくる気配に気付いた。

―政也様

―あぁ

慎は政也とアイコンタクトを取ると気配を殺し、念の為クナイを構えた。

ジャリジャリと相手は警戒するでもなく普通に音を立て、気配も露に近付いてきた。

一人か?いや、でも。

腰に左右一振りずつ刀を帯刀している。

その人物は慎達のいる木から少し離れた場所で立ち止まると声を上げた。

「そこにいるのは分かってるんだ。出て来い」

その人物はそう言って、正確に俺達のいる場所に視線を向けてきた。

―どうします、政也様?

一人なら気絶させる手もある。

俺は政也様に視線で言う。

それに政也様が答えるより早く、相手がまた口を開いた。

「せっかく彰吾を撒いて一人になってやったんだ。来いよ。アンタが欲しいのはオレの首だろ。この伊達 遊士のな?」

―伊達 遊士!?

俺と政也様は顔を見合わせて驚いた。

こんな簡単に城主に会えるとは。それも相手は一人きりだと言う。

「行くぜ慎」

相手が誰だか分かった政也様の行動は早かった。

木から飛び降りると遊士の前に立つ。

俺も政也様の半歩後ろに降り立つと前を見据えた。

「ah…?」

遊士は降り立った二人組、特に見るからに忍ではなさそうな政也に目を止めると不思議そうな顔をした。

「誰だアンタ?」

そしてそう口にした。

「俺か?俺はな…」

政也様は何が嬉しいのかにやにやと笑って素直に答えた。

きっと自分の子孫に会えて嬉しいだとか、自分の言葉に遊士がどう反応するかが楽しみなのだろう。

まぁ、分からないでもない。

遊士は政也の名を聞くと大きく目を見開いた。




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